Valentineday・Kiss

by姫江 朔也様


 明日は特別スペシャル・ディ、1年1度のチャンス♪

「Oh、ダーリン♪」
「ふっるー!あんた随分古い歌口ずさんでるなぁ。もうちょっと新しい歌にしたら?年がバレるぜ?」
 いつもと同じように保健室で寛いでいた晶は、この部屋の主(あるじ)を見上げる。
「晶から見たら僕はおじさんかもしれないけどね。だからといって年齢を隠すつもりはないんだよ」
 苦い色を微かに滲ませ、柔らかい笑みを向ける。
「おじさんだなんて思ってないよ.。先生こそおれのこと、子供だと思っているだろう?」
 椅子の上で抱えた膝の上に顎を乗せる。
「子供だとは思っていないよ。若いな、とは思っているけれどね」
「どう違うんだよ?」
 怪訝そうな顔の晶に近づいて額に唇を寄せた。
「わっ!?何すんだよ!!」
 驚いて体を引いた拍子にバランスを崩し、座っていた丸椅子から落ちそうになる。受身を取る前に強い力が晶の体を支えた。一瞬の出来事で、晶には何が起こったのか解らない。
「びっくりした……」
 その声に自分の置かれた状況を理解する。
 体にしっかりと回されているのは、櫻井の腕。
 スポーツ関係は苦手な櫻井に自分を支えるほどの力があるとは思っていなかった晶は、意外な力強さに驚いていた。
 ――組み敷かれたら、逃げられないかもしれない……
 ひょんなことで櫻井が男であることを思い知らされた。もちろん女だと思っていた訳ではなく、 口では変なことばかり言いながら、絶対に晶の嫌がるようなことはしない櫻井に身の危険を感じていなかった。自分の方が絶対に強いと確信していたからだ。心のどこかでなめていたのかもしれない。
「晶、ケガはないね?」
 声をかけられ、我に返る。
「大丈夫!」
 慌てて櫻井の体から逃げ出すと、近くのソファに腰掛ける。
「そんなに慌てて逃げなくても何もしないのに」
 苦笑いを浮かべる櫻井に、晶は困って目をそらす。
 ――今の関係をこのまま続けていて良いのだろうか?「本気になれ」と先生をけしかけたのはおれ。
    先生は深く傷ついたことのある心を再び開いてくれたのに、そこまでさせたおれは逃げてばかりいる。……別れたい訳じゃないのに。
「……卑怯だよな……」
「晶?」
 問い掛ける櫻井の瞳をまっすぐに見つめる。
「先生、このままでいいのかよ?おれ、先生に『本気になれ』って言ったくせに逃げてばかりいる。 …ズルイよな」
「…晶はどうしたいんだい?先に進んでもいいの?」
 僅かな距離をゆっくりと近づいてくる櫻井に、晶は体を硬くする。
 隣に腰掛けた櫻井は、カチカチになっている晶に手を伸ばし、優しく頬に触れる。
「…もう、待たなくていいの?…もう、待てない……」
 囁いた唇が触れた。優しく押し当てられた唇は暖かくて柔らかかった。
 触れるだけのキスを何度も繰り返し、互いの唇の感触と温もりを確かめる。
 部活動が始まる時間を告げるチャイムが鳴った。
 名残惜しげに櫻井が唇を離す。
「ここが学校じゃなかったら、こんなところで終わらせないのに!」
 珍しく悔しそうな櫻井に、目の淵を赤く染めた晶が笑う。
「こんなところじゃ誰が入ってくるか解らないだろ?」
「いつもならあと1時間は大丈夫なんだよ。だけど今日は職員会議があるからね、行かないと 放送が入るだけでなく、探しに来られてしまう」
 それでも名残惜しげに晶の唇を指先が辿る。その指先に軽く噛みついて、
「先生」
 掠めるように櫻井に口づける。
「晶!?」
 まさか晶からキスして貰えると思っていなかった櫻井は、大きく目を見開いて晶を見つめる。
「これが本当の『バレンタインデー・キス』だな。先生、今のがチョコレートの代わりね」
 今日はバレンタインデーだろ?と晶の瞳が告げている。櫻井の瞳にも優しい色が浮かぶ。
「最高だね。僕も用意しておいたんだよ」
 冷蔵庫から取り出したのは高そうな包装紙に包まれた大きな箱。
「はい。一度に食べちゃダメだよ。体に良くないからね」
 微笑みと共に晶に渡すと、手早く書類を纏める。
「じゃあね、晶。気をつけて帰るんだよ」
 慌しく部屋を出て行ってしまった。
 取り残された晶は渡されたチョコレートの包みを開ける。
「……どんな顔して買ったんだろう……?」
 大きな箱の中には高そうな生チョコが入っていた。とても1人で食べられる量ではない。
「先生と食べよう。一人じゃ無理だ」
 取り敢えず一つ摘んで、残りは冷蔵庫に入れる。口の中でほろ苦い甘さが広がり、微かな洋酒の薫りが鼻腔を擽る。
「高いチョコレートはやっぱり味が違うなぁ」
 メモ用紙に「一緒に食べよう」と書いて、チョコレートの箱の上に置き保健室を後にする。
 微妙だった関係が一歩前進した、記念のバレンタインになった。

 ――初めてキスしたのがバレンタインか……

          バレンタインデー・キス

        うん、これも案外悪くないな。

おわり

 

 

 


 

えへ♪
BOYxBOYでお知り合いになった朔也さんがサイトに掲載していたらぶらぶストーリーを超我が侭を申し上げて奪って、いえ頂いて参りました(笑)。
櫻井先生をダーリンと言う朔也さんだけあって、櫻井先生は格好いいし、晶くんがとっても元気で可愛くていい子なんですよ!
朔也さんの書かれるキャラクターは、私好みというより完璧”ツボ”です。
朔也さんの晶くんってゲーム中そのままって気がします♪

 























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