Rei様からのお祝い品 兄×諒

 

ブルジョア・ナイト

都市開発された街は夜とは思えないほど華やいでいた。
それでも繁華街から離れた海沿いに立てられた高級ホテルまではその喧騒も届かない。
 諒はフロントでカードキーを受け取ると、六基ある一般客用のエレベーター前を通りすぎ、最上階のスイートルーム直通エレベーター前で足を止めた。
本来階数指定ボタンがある位置に取り付けられているセンサーに、いつものようにカードキーを押し込むとドアがすぐに開いた。
諒を乗せたエレベーターが上昇し、微かな揺れを伴ってドアが開いた。
このホテルは最上階のワンフロア全てが贅沢にも一つのスイートルームに使われているため、エレベーターホールの前には部屋に入る為の扉しかない。両開きの扉の前に一人ずついたスーツ姿の警備員が諒の姿を見とめるとゆっくりと扉を開く。
中に足を踏み入れると、毛足の長い豪華な絨毯に足首まで沈んでしまう。絨毯だけではない。室内を飾る生花や絵画、装飾品からアメニティにいたるまで全てが豪華な一流品で統一されている。
ホテルというよりはどこかの国の王族の宮殿のようだ。
諒が知る全ての部屋はどれも計算し尽くされていた。
正確には何部屋あるのかは知らないが、他の部屋も同様にコーディネートされていることは確かだ。
『相変わらずすごい部屋だな』などとぼんやり考える。
ちゃんと聞いたことは無かったが、一泊するだけでも自分の年収とさほど変わらないであろう部屋に対する感想がその程度しか沸かないことに微苦笑した。
『オレも相当総一郎に毒されているな』
諒の耳に馴染み深い声が届いた。
「遅かったな、諒」
「いきなり呼びつけておいて勝手なこと言うな。
 オレにだって予定ってもんがあるんだぞ」
不機嫌な口調を作って答える諒に総一郎は唇の端を上げる。
「それは悪かったな。お詫びに何か作ってやろう」
言うと同時にバースペースに移動する。
「・・・全然悪かったなんて思ってないくせに・・・」
総一郎の呼び出しは何時も突然だ。もちろん諒の部屋に来るときでさえ突然訪れるか、10分ほど前に『これから行く』と一方的な連絡を入れることが常なので、今更どうこう言ったところで総一郎の態度が改まるはずもない。
「何にする?」
シェイカーを手に問い掛ける総一郎に小さな溜息を一つついて、諒は向かい合う形でスツールに腰掛けた。
無理な注文をしてやろうかとも考えたが、総一郎の作るカクテルが美味しいことを思い出す。
無いものを言えば間違い無く簡単に取り寄せるだろうし、つまらない意地で滅多に味わえない総一郎のカクテルを逃すのもばからしい。
見ると室内の片隅に作られたバーカウンターは小さいながらも充実していた。
「・・・おまえに任せる」
少し思案したが結局まかせることにした。諒より総一郎のほうが酒にずっと詳しい。
まかせてしまえば間違い無く美味いものが味わえることを経験上知っていた。
了承の印しに、総一郎が僅かに微笑んでみせる。
数種類の酒瓶を並べ、冷蔵庫からレモンを取り出す。それぞれの液体を鮮やかな手つきでブレンドしていく総一郎を眺めながら、今夜の総一郎が何時になく機嫌がいいことに気づいた。
いつもは一部の隙も無くきっちりと衣服を身に着けているのにいまはタイも無く、シャツは胸元まで開いている。
弟の前では見せることの無い、猫科の肉食獣に似た雰囲気が前面に出ている。
こんな総一郎を目の当たりにすると、諒はいつも野生の豹を連想した。
しなやかで、強くて、決して隙を見せようとしない。
けれど何時の頃からか、時々、ほんとに時々だけれど、その人慣れない野生の豹が自分の前だけではゆったりとくつろいで見せるようになった。
肌を重ねた夜の分だけ情が移ったと片付けるには甘すぎる感情が胸中に沸き起こり、諒はそっと目を伏せた。
すっ、と目の前にカクテルグラスが置かれた。
「ビィットウィーン・ザ・シーツだ。」
からかいを含んだ口調で告げる総一郎に諒は肩をすくめる。
「おまえらしいな」
あからさまな誘い文句に諒はグラスに指を絡めると、味わう間もなく一気に煽った。
喉の奥で焼け付くような熱が生まれる。
――酒のせいにしてしまえばいい――
スツールを降りると、自ら寝室に続くドアに手を掛けた。
「来いよ。そのつもりなんだろ」
挑発的な諒のセリフに総一郎はほくそ笑む。悪巧みをするように。
「強気だな。後悔するなよ」
・・・うるさいっ!
胸のうちで悪態をつきながら、それでも諒は寝室の扉を開いた。

また、戻れぬ夜を一つ重ねるために。

 

 

 

 


 

Rei様が日記で公開したセラ・スパ語りがあまりにも格好良くて、持って帰りますーと強引に持って帰り、お披露目したいんですーと駄々を捏ねて、こうしてお披露目させて頂く事になりましたv
兄ーーーかっこいい!久神の名は伊達じゃないのよー。
きっとセカンドハウスとしてスイートを使っているの。そしてそこに入れるのは諒だけなのよー!!!
と妄想全開で楽しませていただきました。
同じ語りでもこれだけ違うなんて…と自分を振り返ることもなく(苦笑)、素敵な語りに酔いしれております。
Rei様ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 


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